神が約束する理想世界は「神の世」松の世」「水晶の世」「み
ろくの世」などいろいろに表現されているが、その内実とするとこ
ろは「神も仏事も人民も勇んで暮らす世」である。なかでも「みろく
様の神道に立帰りなさる世が巡り来て・・・」とか「昔の根本のはじま
りのミロク様が・・・」「みろくの世に捻じ直す」など、筆先のいたる
ところに「みろくの世」「みろくの神」の言葉がみうけられる。
 シンクレチズム的発想は日本の宗教の特色でもあるが、「みろく」
は元来仏教のもので、弥勒菩薩は梵語でマイトレ−ヤといわれ古い
伝承神話につつまれてインドの民衆に広く信仰されてきた。釈迦滅
後、五十六億七千万年の後にこの世にあらわれて、釈迦の教えにも
れた衆生を救済するという仏教的なメシア思想ともいうべきもので
ある。この弥勒信仰はインドをはじめ、ことに現世主義的な中国で
は未来仏の信仰として、地上における救済を成就する弥勒下生の信
仰とむすびついていちじるしく現実的政治的なものとなった。その
信仰的結社の力はしばしば急激にふくれあがって変革への道を志向
し、時に王朝をたおしたほどである。
 日本には奈良期のとき法相宗の伝来とともに弥勒像がはいり、弥
勒浄土に救われるという信仰がまず貴族社会に普及した。中世に下
ると弥勒はその分身である布袋信仰を生じ、やがて七福神につなが
って庶民の間にひろがってゆく。
 近代では弥勒信仰はより現実的となり、民衆の政治的経済的社会
的な窮乏からの救いの待望を成就するものとされ、幕末期の「熱狂
的な世直し」「ええじゃないか」にあらわれる現状打破、変革の運

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