はじめに:綾部の文化財を守る会の会報「故山下潔己氏追悼特集」にこの原稿の依頼を受けた、会長の木下禮次氏も故人となられました。両先生のご冥福を慎んでお祈り申し上げます。

  綾部資料館建設と故山下潔己氏の思い出
                               綾部郷土資料館建設推進協議会事務局 鍋師 有

 私の中学3年担任の恩師である木下禮次先生から、資料館建設の促進運動に協力して欲しいとの連絡をいただいて、文化財を守る会事務局長の山下潔己氏にお会いした。

 昭和44年に旭町覚応寺の仁王像の海外流出の事態が生じ、国立京都資料館に収蔵されるという郷土の文化財流出の危機に対し、いち早く資料館建設の活動をされてきた文化財を守る会であったが、 さらに全市民運動として強力な建設促進の基盤を求め、観光協会など22団体を集め、綾部市郷土資料館建設促進協議会が発足した。

 私は歴史には全くの門外漢であるに関わらず、青年会議所の「丹の国・綾部」関連の諸事業に、木下先生には何かとご指導をいただいてきた経緯もあり、経済人の私に資料館建設促進協議会の事務局を手伝えとのお話であった。

 まず山下潔己先生から、文化財を守る会でつくられた、綾信の本町支店と、鍛冶屋農協の各500円入りの通帳をいただいた。その鍛冶屋の農協前が、山下先生のお宅であった。

 山下先生の適切なご指導と、貴重な文化財を守る会の記録を参照させていただきながら、協議会発足のための会則案や名簿を作成し、総会の準備をおこない、続いて市長、知事にたいして陳情書を作成、木下会長など三役そろい、文化財を守る会とも協調して陳情を行うことができた。この陳情活動は計3回におよんだ。

 また協議会の事業活動として、通算で3回にわたり、先進地視察の機会を持った。行政関係者を含め多数の参加を得て、行政バスをお借りして、春日町歴史・民族資料館など丹波一帯の資料館を視察した。山下先生からは1000円の参加費で用意する昼食の設営に、貴重なアドバイスをいただいたり、視察する諸施設を巡る、やまあいの連絡道をご指示いただくのが常であった。

 私市丸山古墳の建設にあたり、名前を書いた葺き石を市民から集めることにも協力させていただき、先生の運転される軽トラに乗り、上林の集積地と私市丸山古墳の間を、葺き石をつみおろししたこともあった。先生は率先して仕事をされ、私達に的確な指示をしていただいたうえに、飲み物までしっかり用意していただくご配慮ぶりに、さすがベテランの(文化財を守る会の)名事務局長さんだなと感心した。

 この丸山古墳の出土品も契機に、趣意書を作成し署名運動を行い、2632名の署名を得て請願を行った。長年の念願がかない完成した綾部資料館に、監視カメラ一式(50万円)を寄贈することができたのも山下先生をはじめ関係者の弛まないご努力の賜であった。

 こうして歴史資料館はできたが、山下先生が大変心配されていた、急速に失われつつある民俗民具を蒐集展示する民俗資料館の建設促進を、時期を見て進めることを先生の霊前に誓い、先生のご冥福を心からお祈りする次第です。

補記
*1.私は中学時代に歴史クラブに入っており、木下先生の引率で以久田野古墳の野外研究の見学をした記憶がある。先年の綾中創立記念50年誌の年表にこの記録があるのを見て、先生方の社会活動は以前から非常に活発であったと改めて確認した次第である。

*2.私の青年会議所時代に、冊子「丹の国・綾部」の編纂に当たり、歴史編の「ふるさとへの回帰」で木下先生のご指導をいただいた。環日本海文化圏や照葉樹林文化などの話題に、山陰こそ日本の表玄関だったという、第一話「国津神のふるさと」を創作し、木下先生から丹波は大和朝廷のどんづまりのであったとの通説を破る、メルヘンだと言っていただいたことがある。

 綾部青年会議所の一連の「丹の国」の活動では「綾部町史」を編纂された村上祐二氏が故人になられたあとを引き継いで、木下先生にご指導をいただき、さらに「丹の国バスツア−」での社寺見学、「丹の国絵はがき」の製作に先生の厳しい監修をいただいて発刊できた経緯がある。

*3.青年会議所には早くから「まちづくり」「市民運動」という活動理念があり、市民憲章推進協議会、青少年育成連絡協議会などを、関係諸団体を集め結成したが、この資料館建設促進協議会の性格もそれにならい会則、組織などを設定した。

*4.組織団体:綾部観光協会、綾部商工会議所、綾部市公民館連絡協議会、綾部市連合婦人会、綾部市文化協会、綾部市農業協同組合、綾部市森林組合、宗教法人・大本本部、綾部ロ−タリ−クラブ、綾部ライオンズクラブ、九鬼会綾部支部、綾部足利会、京都府蚕糸同友会、山家資料館、黒谷和紙保存会、京都府神社庁綾部支部、綾部市神社総代会、綾部西国観音霊場会、綾部史談会、綾部の文化財を守る会、綾部古美術親交会などに後日、社団法人綾部青年会議所、鮭の子文庫も参加しての22団体。

*5.先進地資料館視察先:春日町歴史・民俗資料館、園部町歴史資料館、篠山町歴史資料館、福知山歴史資料館、府立丹後資料館、宮津前尾記念文庫、加悦農村文化伝承センタ−、舞鶴郷土資料館、夜久野郷土資料館、グンゼ記念館、黒谷和紙資料館、山家資料館、和知郷土資料館。

*6.部郷土資料館設置に関する請願書
1 請 願 の 要 旨
 私達の故郷に、私達の祖先が遺した貴重な文化財を守り、文化遺産の散逸を防ぎ、併せてその保護と活用を図る施設としての資料館を設置していただきたく、署名簿(2,632名分)を添えて請願いたします。

2 請 願 の 理 由
 郷土資料館の建設について、近年各地の市町村に相次いで設置される中、ひとり綾部だけが出来ておりません。 今綾部市は財政基盤を固めながら、過疎化、高齢化に歯止めをかけ市政の活性化を図ることが重要な課題であります。このため「はばたけ創造の時 躍動綾部」を基本理念とし、二十一世紀を展望する総合計画を定め、現在、京都府綾部工業団地・近畿自動車道敦賀線・公共下水道・市立病院等の建設、由良川改修農業基盤の整備・商業の近代化・京都縦貫道・東部観光開発等各種大型プロジェクトの推進に鋭意取り組まれ、これらの計画的な推進とともに高齢化・情報化・国際化等々の新しい時代の要請に答えるとともに、広く市民意識の把握とその反映に努力頂いている所であります。
 一方、ふれあいと心豊かな都市つくりのため、市民文化の振興、文化財の保護も重要な課題であります。開発が進み大きく変貌を遂げようとする中で、文化財の保護と開発の調和を図ることは、ますます焦眉の急となってまいりました。市当局におかれましても、文化財の保護及び文化行政の進展に積極的な対応を頂き、郷土資料館の建設に向けて着々と準備を進めて頂いている所であります。市内各社寺所有、有形文化財の国・府指定が相次いで受けられ、民俗資料・公私古文書等、綾部の歴史的発展の各分野資料の保護とその活用を図りながら、その貴重な遺産を後世に継承しなければならないと考えます。また昨年発掘され全国的な話題になりました私市円山古墳の素晴らしい出土品につきましても、綾部には受け皿となる施設がありません。
 「綾部郷土資料館」建設が、このような趣旨を十分満たして頂きながら、早期に実現できますことを念願するものであります。
 ここに、広く市民の皆様からご理解とご賛同を頂きました署名簿を添え、一日も早く資料館を建設して頂きたく、強く請願致します。

平 成 元 年 10月25日
綾部市議会 議 長
  米 田   信     殿

        請  願  者
        綾部郷土資料館建設促進協議会
        会 長  住 所  綾部市小呂町天野19番地
             氏 名  木 下  礼 次
        副会長  住 所  綾部市新庄町初16
             氏 名  西 田  好 三
        副会長  住 所  綾部市味方町宮ノ上64
             氏 名  西 村  勝 美
        副会長  住 所  綾部市上野町小倉33
             氏 名  浅 田  次 男
        事務局  住 所  綾部市神宮寺町蟹田6番地の6
             氏 名  鍋 師    有
        事務局  住 所  綾部市井倉町樋ノ元9
             氏 名  宮 本  太 資
  綾部郷土資料館建設促進協議会 組織団体および役員名簿 (順不同)
  顧  問  由良源太郎 (綾 部 商 工 会 議 所 会 頭)
  顧  問  福井 祐司 (綾 部 足 利 会  会 長)
  顧  問  山内 司郎 (綾部市農業協同組合  組合長)
  顧  問  安村広太郎 (綾部市神社総代会   会 長)
  会  長  木下 礼次 (綾部の文化財を守る会 会 長)
  副 会 長  西田 好三 (綾部の文化財を守る会 副会長)
  副 会 長  西村 勝美 (綾 部 市 観 光 協 会 会 長)
  副 会 長  浅田 次男 (九  鬼  会    支部長)
  常任理事  山崎  巌 (綾 部 史 談 会  代 表)
  常任理事  永田 節治 (綾部古美術親交会   会 長)
  常任理事  四方  彰 (綾部市観光協会   専務理事)
  常任理事  田中  保 (綾 部 市 文 化 協 会 会 長)
  常任理事  永井  均 (綾部市自治会連絡協議会会 長)
  常任理事  吉村 敏子 (綾部市連合婦人会   会 長)
  常任理事  大槻 哲雄 (綾部市公民館連絡協議会会 長)
  常任理事  福田  清 (黒 谷 和 紙 保 存 会 会 長)
  常任理事  竹野  繁 (京都府蚕糸同友会   代 表)
  常任理事  山下 潔己 (綾部の文化財を守る会事務局長)
  理  事  福井 治夫 (綾 部 市 森 林 組 合 組合長)
  理  事  林 貞美 (山 家 資 料 館  館 長)
  理  事  馬瀬  洋 (宗教法人 大本本部  代 表)
  理  事  牧野 信一 (綾部ロ−タリ−クラブ 会 長)
  理  事  山本 橘夫 (綾部ライオンズクラブ 会 長)
  理  事  森田 和行 (社団法人綾部青年会議所理事長)
  理  事  梅原 陽介 (鮭 の 子 文 庫  文庫長)
  理  事  久田 幸雄 (綾 部 市 文 化 協 会 副会長)
  監  事  四方 律夫 (京都府神社庁綾部支部 支部長)
  監  事  松井 真雄 (綾部西国観音霊場会  会 長)
  事務局長  鍋師  有 (綾部の文化財を守る会)
  事務次長  宮本 太資 (綾部古美術親交会)